Peep's murmur : 13

相棒、そして
2012/07/10

いつかは ここに書くことになると思っていた。
いろんな憶測が飛び交い、中には間違った情報もあったり
それはおそらく 彼の人の望むことではないし 伝えるとしたら「相棒」の仕事だと思った。

今年/2012年1月24日早朝。
わが相棒、加瀬竜哉は永眠しました。

彼の最期について 興味本位で書き立てる人もあり それはとても悲しいことで 見る度に『違うんだよ!』と心で叫んできたけれど 思い出すこともつらく口を閉ざしてきました。
癌。数年前から闘ってきた相棒。代われるものなら
立ち直ったわけでも ましてや癒えたわけでもないけれど 彼の相棒として そして最期を看取った者として あの日のことを書き記しておこうと思います。

2012年1月23日。予報は夜から大雪。
その2、3日前から風邪気味だった相棒。心配すると「明日からは休みだから。病院行くから」と言うばかり。その日もいつものようにbazooka-studioのroom1964でマスタリングの仕事が入っていました。少し難しいマスタリングで....マスタリングではよくあることですが、複数のクライアントの意見が分かれてしまい、音が決まらず長引いてしまうというケース。スタート時間も遅かったので、日付が変わるまで終わらないだろうことは予想はしていました。
いつものように相棒の背中を見ながら仕事を見守っていましたが、長引くにつれ、後ろから見ても汗がすごく、具合がよくないことは一目瞭然でした。
クライアントのひとり/相棒の良き理解者でもあるOさんも気がつき、こっそり私に「今日はやめようか?」と言ってくれましたが「お願いです。遠慮だけはしないでください。彼がいちばん嫌がることなので」と言うのがやっとでした。

外は予報どおりの大雪。電車も乱れているだろう様子。こっそり「おまえは終電で帰れ」と耳打ちされてました。だけど日付が変わる頃、「ごめん。最後までつきあってくれ」と周りに気付かれないようメール。最初から おいて帰る気は なかった  なかったよ

日付が変わり、終電もなくなった頃、長かったマスタリングが終わりました。
クライアントを見送り 安心したようにソファに横になった相棒。
その日に限って スタジオにはもう私と相棒、ふたりだけで とりあえずすぐに帰って休めるよう、私は他のフロアの鍵をかけたり電源を落としたり
room1964に戻ると少し眠ったような相棒。何度か起きようとするけれど できず ただ手を握ることしかできず

どのくらいそうしていたんだろう。
ふっと起き上がった相棒が「病院へ行く」とつぶやいて 自分からそういうことを言う人じゃなかったので すぐに119番をコールしました。早く、早くと願いながら いっそう強く手を握って

外は?雪まだ降ってるのか?
降ってるみたいだよ
やだな 今日で仕事一段落なのに
雨男....天変地異男だからね
そうだな おまえは気をつけて帰れよ

おまえは 気をつけて帰れよ

ひとつ 大きな息をするのと同時に 救急隊が到着しました。
私と入れ替わるように相棒の手を取った救急隊員の方の言葉は 「心肺停止」



嘘です
今まで 今 まで 話してたんです
手も握り返してたんです
今 まで




マッサージ
担架
病院の廊下
積もる雪
冷たい 雪


数時間後 呼ばれると そこには眠った相棒がいました
目覚めることのない 相棒がいました

おまえは 気をつけて帰れよ

愛する音楽を全うして 眠った相棒
私を気遣いながら 最後の息をついた相棒



病院からの説明
警察の実況見分
いつの間にか明けた 長い夜


体中が 涙になることが 本当にあると知った

それでも 考えろ 考えろ って
俺が 今 どうして欲しいのか 考えろって
心の底で声がして


まず 知りうる限りの人に連絡を
メール 電話 facebook
そう facebook 始めたばかりだったね
俺もそろそろfacebookかな、なんて
いつものように設定は相棒である私に任せて
あっという間に友達増えちゃったよ なんて 自慢してたね
こんな形でお知らせすることになるなんて思いもせずに

すぐにうちまで駆けつけてくれた 森久保さん 石川さん 乙部さん
電話口で 一緒に泣いたASAGIくん
もう 時間の感覚もなくて 気付いたら3日間寝ていなかった

お通夜 そして告別式
何もかも夢のようで
ただ、駆けつけてくれた多くの人たち
礒部さんご夫妻 田原さん dRESSさん ave;newの皆さん ユーイくん まぁやくん さみくん あかとくん しおるちゃん まことくん ASAGIくん るいちゃん HIDE-ZOUくん ツネくん ひろきくん 抱きしめてくれた美弥子さん あおいさんはじめシンフォニーの皆さん U-keyちゃん サヤカちゃん 音留ちゃん 須山さん 長尾さん 沖井さん
まだまだ たくさん 書ききれない
その人たちの存在に リアルを感じて

受け入れるしかないことを 知りました


みんな 来てくれたよ
笑ってるように見えた相棒
もう 腰も背中も足も 痛くないよね
好きなだけ ギターも弾けるね
写真を入れておくね
そっちに行ったら また一緒に歩いていこう

本当は 今 ここに居て欲しいけど
少しは休んで 走りすぎたから




5ヶ月と少し 経ちました。
今も涙は涸れないけれど


先日 某ヴォーカリストが 雑誌でたつやさんのことを話してくれました。
まだ 生きてるんだね
そうですよ、Peepさんの中でも 俺たちの中でも 加瀬さんは生きてます!

ひとりで 泣いてしまうのは許してね
ほかの「誰か」の前では頑張るから
加瀬竜哉の相棒として恥ずかしくないよう
さすがだと言ってもらえるよう 頑張るから

そばで 見ていてくれると 信じてるから 感じてるから


加瀬竜哉を 愛し 支えてくれた 全ての人に 感謝します。
どうか 時々でいいから 思い出してやってください。



 加瀬竜哉の相棒  Peep そして桃園環こと 松本直子より


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